花の吉原 ● 華のディズニーランド
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桜の蕾が淡く枝を染める3月の半ばに【袖たもと花を散らせてしょんがいな】
と題する松岡正剛氏主宰のレクチャーサロンがあり講師を務めさせて頂いた
ことがあった。
都内某所のお座敷を江戸時代の隅田川に浮かぶ屋形船に見立て唄にまつ
わるお喋りをはさみながら端唄、小唄、新内、地唄をディズニーランド関係者
の方々にも聞いていただいた。その日は大いに盛り上がり夜更けまでつい居
続けの別れ際に「今度は是非ディズニーランドへお越し下さい」とのお誘いを
受けた。
まだ訪れたことのない私は、60年ぶりの晴天が続いた連休中、ひたすら仕事
をこなし衣替えをすませ…と、まるで花魁の待つ吉原へでも行く旦那衆のよう
に浮き浮きとその日を迎えた。
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皐月眩しい光のなか、緑の風も心地よく、空いた道路を軽快に車を走らせ、
隅田川を渡り、右手に聳え立つスカイツリーを過ぎると程なくしてまるで江戸
吉原の大木戸のような門が開きトランプから抜け出たような門番に導かれる
とリゾートホテルのフロアーは色とりどりの老若男女でいっぱい ! その中に長
いドレスの小さくておしゃまな淑女がディズニーの主人公のように混じり、もう
童話の国の一ページが始まったかのようだ。
部屋での束の間の休息もそこそこに、外のざわめきにせかされるようにドレス
アップして薄い夕闇に包まれたエンタテイメントドームで繰り広げられるシルク
・ドゥ・ソレイユ<ZED>を観に行った。
正面のかぶりつきの席だったので、目の前にくりひろげられる芸人の汗が煌
き、細い綱の上での迫真の演技や鍛え抜かれた男女のまるで静止している
かのような美しいシルエットの連続に息を呑み、人間業とは思えない技の連
続に思わず緊張していると、おどけたピエロがそれをほぐす笑いを誘いまさ
しく幻想的でファンタスティックなひとときだった。
その興奮も冷めやらぬままヴィクトリア様式の建物が軒を連ねるワールドバ
ザールに向う。
レストランでお喋りしながら美味しい料理に舌鼓を打っていると、音楽と共に
ディズニーの仲間達のパレードが始まり、やがて夜空に花火が次々と打ち上
げられる。漆黒の森のような世界に映えるその光景は、まるで江戸の隅田川
に浮かぶ屋形船から眺める花火のようで、年中夜空を彩ったという花の吉原
が時空を超え、夢いっぱいの華のディズニーリゾートに見事に甦ったかのよう
に思った。
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次々と仕掛けられるマジックにふんわりと包まれ喧騒の日常を忘れ閉園間際
までメリーゴーランドで童心にかえり、くまのプーさんのハニーの香りに誘われ
不思議の国のアリスになったように趣向を凝らした迷路を行ったり来たりの一
日であった。
翌日は開園と同時に勇んで出かけたが、すでに長蛇の行列で、時間がたつ
につれ、昨夜の水彩画のようなシーンは、鮮やかな油絵の具で瞬く間に次々
と塗り替えられていった。
ミッキーの帽子をかむった若いカップルやバギーカーを連ねたママ・パパ達が
子供達に負けない派手なファッションで一緒に歩き回り、すっかり元気で賑や
かな遊園地へと変貌してゆく。
やがて童話から抜け出たようなぬいぐるみやシンデレラ、白雪姫、ピノキオ、
ピーターパンと昔なじみの主人公が次々とパレードに続き、客の列に入って
握手をしたり、笑顔で挨拶したりと子供たちと楽しく交流している。はるか昔味
わったかのような光景は、青空をバックにした絵本のようで我々も共に楽しん
だ。そして今度は「アトラクションにレッツゴーしましょう!」とアリスのレストラ
ンで食事をしエネルギーを蓄え、長い行列に加わった。
蒸気船マークトウェイン号に乗り西部開拓のアメリカの旅をしたり、熱帯植物
や動物が待っているカリブの海賊船に乗ったり、アメリカの河を舟で冒険し最
後に滝に落ちるというスリルとサスペンスに満ちた体験をし、日頃は並ばない
行列に何度も加わり、好奇心と冒険心を失なっていない昔の自分を取り戻し
たかのように思わず時間のたつのも忘れ遊びまわった。
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こうして一泊二日のディズニーの旅を終えて思うことは、もう夢から遠くなって
しまったはずの自分が、はからずもディズニーの手のひらに乗せられて思う
存分遊んでしまったかのよう・・・なのである。あまりに日常を忘れさせてくれる
異空間の遊びに満ちていたので、まるで浦島太郎のように時間が止まってし
まったかのように。
それはきっと東京ディズニーランドが、ウォルトディズニーの作り上げた夢の
世界を、国を超え時代を超えて再現し、あらゆる世代にアピールするように
かたちを変えながらも未来を見据えて持続しているからなのだろうと思った。
ともすると私は仕事柄、自分が唄っている江戸と比較してしまうが、吉原も昔
は葦が生えていたような はずれの田圃に男の遊び場を構えた。やがて時を
経て次第に門に入ったら武士も町人も平等な社交場となり、経済の流通だけ
でなく優れた芸術や最先端の風俗の生まれる不夜城となり230年もの長い間
繁栄していった。
初めて潜ったディズニーの門でも入場料を払ったら皆平等! 列に並べば
どんな乗り物にもアトラクションにも参加できる。ミッキーや白雪姫、案内のお
兄さんや御姐さんとも親しくなり思わず笑顔で手を振ってしまう。子供にとっ
てはこれほど楽しい場所はないだろう。遊びながら挨拶の仕方も覚え、絵本
と同じようにドレスアップして、お行儀の良さも身に付いてやがては恋をする
ような年頃になり綺麗な淑女となって又ここに戻ってきて欲しい・・・。
そんなことを思うのは幼い頃に記憶していたウォルト叔父さんの優しい笑顔を
思い出し、そこで働くもてなす側のスタッフも主人公のように客との交流を楽
しんでいるかのように感じたからかもしれない。でもそれは私が思うだけで、
そのためにいかに影で様々な努力と常に新しいアイデアを生み出す戦術や
多くの設備投資がなされているか
・・・ふと我に返ると・・・
邦楽を生業とし、私の唄をこれからも多くの方に楽しんでいただきたいと思う
なら、もっともっと人知れず自分自身を切磋琢磨しバージョンアップしてゆか
ねばと。
華のディズニーランドで大いに遊び感動した私。気分も新たに三味線と共に
誰もが楽しくなる花の吉原を唄ってゆきたい。
(2010年5月17日)
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